ちょっとYPVSの話。
YPVSというのは、YAMAHA POWER VALVE SYSTEM の略で、ヤマハの2ストローク車が普通に走る為にとても重要な構成部品になります。
概略がヤマハHPに記載があります。
一般的に排気タイミングは早いほど高速・高出力型特性となり、タイミングを遅くすると低速・高トルク型の特性となります。高出力型のレース用エンジンの場合も、コーナー立ち上りの加速時には高いトルクが要求されます。このふたつの要求を両立させるのがYPVSの役割です。
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2011/11/ypvs.html
ここで、すこし
hanpa
って話を。


最近OSR-CDIを使っている人が増えてきていて、点火時期について色々と試されているんですが、個人的にはもうちょっとYPVS側のセッティングにも注目して貰いたいと個人的には思っています。

YPVSをセッティングできるOSR-CDIは、つまり排気ポートのタイミングも変更できる事とほぼ同義です。
同様なものは、ホンダはRCバルブ、スズキはAETC等がありますが、多分機械として一番出来が良いのはYPVSなんじゃないかなって思います。
いやなんとなく。

排気時期の調整を行う特許は山程ありますが、ホンダのRCバルブの最初の特許は歴史がひも解けてとても面白いです。
特開昭62-099620引用
「従来の技術」
2サイクルエンジンにおいて、低回転域から高回転域に至る広範囲で高出力を得ようとする技術に、排気通路の内面へ開口上端位置をピストンの移動方向にずらして、排気タイミングを変える技術がある。
この技術を具現化したものとして、次の2つのものが知られている。すなわち、排気通路のシリンダ内面への開口部近傍上部に、全体がつづみ状であってかつ下半分がきりとられた形状のバルブを配設し、このバルブをエンジンの回転状況におうじて回動させるもの、また、排気通路のシリンダ内面への開口近傍を仕切り壁によって上下に分割すると共に、上側に形成したサブ排気通路にバルブを配接し、このバルブをエンジンの回転状況応じて開閉させるものがある。
この知られているという2つの物は、ヤマハのYPVSそのものです。
開店するつづみ状のものがSDR等についているYPVS。
もうひとつのサブ排気通路を開閉するものが、過去TZ250等に採用されていたYPVSです。
2019年モデルのYZ85に搭載されたものは後者のもので、通称ギロチンタイプ。
動画がアップされています。


ホンダはヤマハのYPVSの特許を回避するべく、これに対して課題を設定し、それを解決する為の理由を付けてRCバルブの特許を成立させます。
「発明が解決しようとする問題点」
ところで、前述した2つの技術にあってはそれぞれ後述する欠点があった。
長いのでかいつまんで書くと、
  1. つづみ状の方は冷却が良好ではない、構造が複雑で制作し辛いという欠点がある。
  2. サブ排気通路の方は仕切り板が邪魔をして排気抵抗が大きいという欠点がある。(なのでつづみ状のYPVSが生まれたんだと思いますが)
ということらしく、それを解決する為にRCバルブを発明したという事です。
排気デバイスがどうしても必要だったんでしょうね。
rc

排気時期装置に関する特許を読んでいると、その目的は明確で、チャンバーからの反射波が帰ってくるタイミングを調整して、掃気ポートから入った新気を無駄にシリンダー内部から排出させない事を目的としています。
やっぱりポートタイミングってのは2ストローク車にとって、大変重要な部分なんだと改めて思います。


何はともあれ、OSR-CDIを作成したらヤマハのパワーバルブをもっと有効に使えると良いなって思います。
純正のYPVSコントローラは設計が相当古いまま、なぜか最後まで本当に単純な制御しかされませんでした。(これはホンダの特許が原因かなと思います)
OSR-CDIにおいて、YPVSのセッティングは500回転毎に自由に設定できます。
tab02

純正YPVSコントローラは、登場した頃のCPU性能の限界があったのか、ホンダと比較して電装に弱かった当時のヤマハの限界だったのか、本当に開き始める回転数、全開になる回転数位しか設定項目がありません。

ここはチューニング余地がかなりあります。

例えば4000rpm全前後でほんの少し、バルブ角度にして5度程、OSR-CDI的には10程度閉じ気味にするだけでエンジンの出力特性が大きく変わります。

パワーピークよりも前にバルブを全開にすると、唐突な出力特性になり、まるで出力が上がった様な感覚を覚えます。
これは要注意ポイントで、出力が単純にピーキーになっただけの可能性があります。

パワーピーク後にバルブ全開にすると、なめらかな伸びの良いエンジンになったかのように感じる事ができます。
これはYZ250Xのチューニングにも使われています。
以下は2017年式YZ250Xの発表時に記載されていたものです。
燃焼室容量は、ヘッド側形状変更により、YZ250の21.5ccから23.6ccに、圧縮比は8.9から7.9となっています(YPVS全開時)。あわせて排気ポートタイミングと、トルク谷を解消するYPVSバルブの作動特性を変更。全閉・全開の切り替えエンジン回転数レンジを広くとり、なだらかにバルブを作動させ低速から高速域までの良好な繋がり特性としました。エンデューロで求められる、扱いやすい高速伸び特性を引き出すポイントです。

yz_pic_004
点火時期はパワーピーク後によく影響しますが、YPVSはパワーピーク前の特性を大きく変化させます。
点火時期なんて比べ物にならない位に。

パワーチェックで分かるのは、あくまでアクセル全開領域の出力特性だけで、そこがいくら良くなったとしても中間領域が良く無ければ速く走らせることなんてできません。
「操安はキャブレーションで決まる」とは元HRCライダーの故阿部孝夫氏の名言ですが、キャブレーションだけでなく、排気時期制御装置、パワーバルブ、ヤマハだとYPVSでも大きな役割を果たします。



超余談ですが、YPVSがキーオン時にウィーンと動く動作。
YPVSをアピールする為の機能とか、クリーニング動作とか言われていますが、これも特許取られています。
特開昭57-062917から引用
本発明は、前記従来の2サイクルエンジンの排気時期制御装置の不具合を解決するためになされたもので、弁体を移動することによって排気口の開口高さを変える2サイクルエンジンの排気時期制御装置に於いて、カーボン等による弁体の膠着を防止する2サイクルエンジンの排気時期制御装置を提案する事を目的としている。
エンジン停止後のクリーニングが主たる目的だった様です。