メインキャパシタの放電時間が掛かり過ぎて、1万回転を超える高回転時に、一回充電をミスる件の続き。

パチロクさんの調査により、原因はメインキャパシタの電荷をサイリスタで放電する際に、最後の方でタラタラと放電してしまうので、おおよそ200ns(ナノ秒)程時間が掛かっているのが原因だった。
ダイオードを1000V1A(1N4007)から1000V2A(UF2010)に変えたところ、これが80nsまで短縮された。
恐らく、1N4007のVf値1.1VからUF2010のVf値1.7Vに変わった為、放電の止まる閾値が上がったことが原因じゃないかなと思います。

もっと放電時間を早くする為に、サイリスタを強化品にしてみるのはどうかという提案にまたもやパチロクさんが素早く反応して実験してくれました。
72586177_2761853953832858_5258601513038643200_n
サイリスタ5P4M(500V4A)の時は87.4ns。

これを8P4SMA(600V8A)に変更した。
72845398_464482467495010_2573646125768638464_n
放電時間が82.7nsになりましたと。
だいたい5ナノ秒程短縮・・・。
効果ありですが、物足りない。
パチロクさん、こういった調査は非常に大変な事なのに、本当にありがとうございます。

この問題は要するにサイリスタを使っている限り根本的には解決できない問題だと分かりました。
メインキャパシタの放電中、例えば10Vを切った時に止めてしまうようなコントロールが出来れば良いのですが、例えばツェナーダイオードで扱うには電圧も電流も大きすぎます。
Vf値の高いダイオードを沢山付ければ良いのですが、そんな場所はありませんし、その様なワークアラウンド感満載の恰好悪い事は気乗りしません。(純正CDIはしていますが・・・)

という事で、現代的なパワーエレクトロニクスに頼ろうかと思います。
色々と検討した結果、パワーMOS-FETはTK20A60Uを使い、ドライバーはTLP250Hを使おうかと思っています。
回路図の新旧比較をするとこうなります。
driver
サイリスタ5P4Mを撤去して、TK20A60Uを使います。
パワーMOSFETは5V駆動は出来ないのでドライバも交換します。
高速化を狙ってトーテムポール回路をフォトカプラで駆動するTLP250Hを利用します。
最初はTLP250で考えていたのですが、内部トーテムポールがバイポーラトランジスタであるTLP250よりはFETを使ったTLP250Hの方が、パワーMOSFETのゲート電流を大量に流せて良さそうです。

MOSFETのゲートに電流を流す?FETは電圧駆動じゃないの?という話はインターネット上にゴロゴロしているのですが、FETの高速スイッチングを考える時に、ゲート電荷の充電時間は重要な検討課題になります。
とても分かりやすい説明が以下にあります。
【ゲート駆動回路】ゲート抵抗の設計方法について(Electrical Information)

もう少し詳しい説明は東芝のこのドキュメントが良いと思います。

パワーMOSFETとしてTK20A60Uを選択した理由は、単純に秋月で売っていたことと、TO220パッケージで場所を取らないこと、スイッチング速度がそこそこということ、位です。
(追記→このFETだと容量が不安なので後日で変更)
東芝のサイトでは既に新規設計非推奨となっており、代わりにTK16A60Wを使えという事です。
https://toshiba.semicon-storage.com/jp/product/mosfet/detail.TK20A60U.html

TK16A60Wでも良いのですが、秋月に売ってません。ところがモノタロウには売っています。
ちょっと話は逸れますが、モノタロウはその他の電子部品も時間が掛かったり値段が高かったりしますが、品ぞろえは既に秋月電子の比ではありません。
秋月ではリクエストしても入れてくれないPIC16F1455のSOIC版も、モノタロウでは出荷に10日掛かる問題はありますが、安価に入手できます。DigiKeyやMouser等の大手と連携している様です。
秋月を使う理由はここ数年内に無くなる
と残念ながら個人的には思いました。
頑張れ、秋月。応援してます。

話を戻して。
新規設計非推奨とはいえ、TK20A60Uは当面の間は市場に流れ続けますし、無くなっても特性が殆ど同じTK16A60Wをそのまま使えば良い訳なので、今回はTK20A60Uを使ってみます。

MOSFETのゲート設計をちゃんとやった事は無かったので今回勉強しながらやってみます。

TK20A60Uのデータシートから、以下の値を引っ張りだします。
ゲート入力電荷量 Qg ⎯ 27(nC)
ゲート・ソース間電荷量 Qgs ⎯ 16(nC)
ゲート・ドレイン間電荷量 Qgd⎯ 11 (nC)

gate001
まずデータシートのダイナミック入出力特性から、ゲート入力電荷量Qgを求めます。
ゲート・ソース間電圧を14Vまで充電する時、Qgは39nCになると分かります。
これは14Vで充電した際に、放電時に必要な時間を算出する為に必要です。

ダイナミック入出力の表から、このFETが十分開く為には7V程度が必要で、データシート上は余裕を持って10Vとしています。
gate002
上記
実際にゲート・ソース電圧Vgsが10Vになる為には、ゲート・ソース間電荷量が16nCなので、上記サンプルのゲート直列抵抗50Ωの時に、まず流れる電流が
10V ÷ 50Ω = 0.2A
16nCを充電する為に必要な時間は
16nC ÷ 0.2A = 80nsとなります。
これが上記データシートのスイッチング時間に記載されている内容なんだろなと思います。

この時、ゲート・ソース間に加えて、ゲート・ドレイン側にも充電されているので、放電時はゲート入力電荷量 Qg 27nCの放電が必要になります。
27nC ÷ 0.2A = 135ns
となります。
データシートでは100nsとなっていて差異があるのは、ゲート電圧が一定の値以下(Vth)になるとゲートが閉じるからです。
100nsで止まるということは、
100ns x 0.2A = 20nCの電荷を放出した時点で止まるので、
(Qg)27nC - 20nC = 7nC
つまりゲート・ソース間電荷量 Qgsが7nCのところで止まると思います。

今回14Vで充電したとします。
14V ÷ 50Ω = 0.28A
Qgは39nCでした。Qgsが7nCのところでとまるので、
39nC - 7nC = 32nC
これを放出した時点でゲートが閉じます。
つまり
32nC ÷ 0.28A = 114ns
でゲートが閉じると考えられます。

十分速い。
これ以上速くすることも可能ですが、東芝のアプリケーションノートを引用します。
MOSFET は一般にゲートに抵抗を接続して駆動します。目的は突入電流の抑制、出力のリンギングの軽減などがあります。ゲート抵抗が大きいと、スイッチングスピードが遅くなり、損失が増し性能の低下、発熱の問題を起こすことがあります。逆に小さいと、スイッチングスピードが速くなり、サージ電圧や発振を起こし故障や誤動作の原因になることもあります。ゲート抵抗値を変えることで最適なスイッチング時間を調整することが重要です。
つまり、ゲート抵抗は小さすぎても大きすぎても問題があるって事です。
抵抗値が小さい場合のリンギングと、大きい場合のスイッチングロスについては、以下の文章が分かりやすいです。
MOSFETのスイッチング損失とは?『計算方法』や『式』について(Electrical Information)

ターンオン時間、ターンオフ時間も、今回必要とされている仕様には十分なものなので、一旦リファレンスになっている50Ωをゲート直列抵抗に採用して、次に熱問題の検討に入ります。

つづく