ケンさんの高電圧OSR-CDI 600V splの経緯がヤヤコシイので一回整理する。
ちょっと分かりやすい様に話を端折ってるけど、大体こんな話だ。

タコメータが動かない

ついこの間、まだ試験中のOSR-CDI Version2.0を作って試し始めたケンさんから、電装友の会で「タコメータが動かない」という話が出た。
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RZやTZRは世代によってタコメーターのピックアップ信号の取り方が違う。
これらのバイクはプラグに点火するのに、エンジン内部の発電機で作った交流電気を使ってコンデンサに充電し、これを一気に放電する事によってプラグに火花を飛ばす。

タコメータはエンジンの回転数を調べる為に、このコンデンサーの放電時の電圧を読み取っている。
この時、車種によってはコンデンサーのプラス側から電圧を読みっとったり、マイナス側から取ったりする。
とある情報によれば、TZR250は2XTから、RZ-Rは3HMからマイナス側で取っているという。
新しい車種になるほど、マイナス側で取る様になっている。
CDIがフルデジタル化されたあたりで変更になっている様だ。
少なくともSDRに流用されまくっているTZR(3XV)はマイナス側だ。

OSR-CDI Version2では、パワーMOSFET(ぱわーもすふぇっと)と呼ばれる電子部品でコンデンサーの放電を制御している。
純正CDIや、OSR-CDI Version1系で使っているのはMOSFETの代わりにサイリスタを使う。
MOSFETはマイコンによって、強制的に放電を止めることが出来る。サイリスタは放電が一度始まると、電圧がゼロになるまで止まらない。
MOSFET、サイリスタ、それぞれ利点・欠点はあるので一概にどちらが良いとは言えないが、近年電力制御には性能が上がって来たMOSFETやIGBTと呼ばれる電子デバイスが多く使われる傾向にある。

OSR-CDI Version2はエンジン高回転時に発生するとある課題を解決する為にMOSFETでの制御にトライしている。
その問題は、以下のリンクから順に記載している。

ケンさんのタコメータが動かないのは、OSR-CDI Version2で、コンデンサが放電しきらない内に次の充電が始まっているのが原因だった。

色々聞いてみると、ケンさんのRZはウオタニのイグニッションコイルを付けていた。
これはコイルの巻き数が多くて抵抗値も高い。
なのでそれが原因なのでは?という仮説を立てた。
すぐさまケンさんは新品純正コイルを購入した。
品番統合でTZ250のコイルが来たのでまず間違いないだろう、と思っていたら、ちょっとだけタコメータの動きは改善したけどやっぱり動かなかった。

波形がどうなっているのか?ということでケンさんはオシロスコープまで購入して波形を調べ始める。
この時点でケンさんのRZでは放電しきらない内に次の充電電圧が発電機から来ている事が原因だと分かった。

充電波形が逆なんじゃないの?

パチロクさんと一緒にケンさんの自宅へ行って調査をする事になった。

色々と試した後、RZ版OSR-CDIを作ったパチロクさんが、ある事に気が付く。
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パチロクさんのRZ(29L)だと三回充電して点火。
ケンさんのRZ(1XG)は二回充電して点火。
どちらも発電機の物理的な動きとしては、一回の点火につき三回充電するのには違いが無い。
ところがなぜか、ケンさんのRZは二回しかコンデンサに充電されない。

オシロスコープで詳しく調べてみると、充電電圧の波形と放電タイミングが違っている事が分かった。
ケンさんはRZ(1XG)の発電機、RZ(3HM)の発電機を持っていて、その両方で試したんだけど、どちらもRZ(29L)の波形とは違って、充電電圧の位相が逆になっている。
配線ミスなんじゃないの?と思って配線図やコイルの抵抗値を調べてみるも、やっぱり間違っていない様子だった。
この時点で、
・純正CDIはOSR-CDIと比較して充電電圧がOSR-CDIと比較して結構低い
・29Lの発電機の充電電圧は1XGのものと比較して結構低い
という事が分かった。

逆につないでみる

29Lと1XGでは、充電波形の位相が逆になっているのが分かったので、当然逆接続を試すケンさん。
やり方は簡単でコイルから来ている充電線(赤、茶、緑)のうち、赤、茶を逆に接続するだけ。
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試してみると500Vを超える充電電圧になる事が分かった。
高電圧なんだけど、波形はパチロクさんのRZ(29L)と同じになる。
三回充電して一回放電のパターンだ。
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早速OSR-CDIのVersion2.0を付けてみるも、MOSFETが燃えてしまった。
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どうやら電圧・電流共にMOSFETの定格をオーバーしてしまう様だ。

ケンさんはここで諦めず、秋葉原で部品を調達してOSR-CDI Version1の600Vsplを作る事になった。
コンデンサを定格400Vから640Vに、サイリスタを定格500Vから600Vに変更。
600v
北見さん化したほんものの自動車整備士であるケンさんは、何かに火がついたのか、高電圧化の魅力に取り込まれたのか、止まらなかった。
  • 【ちょっと余談】世の中では点火電圧を上げるチューニングが、当然良い事の様に考えられているので、色々な面でこれは良い事だと信じられている。
    しかし自分は過去に調査した事があって、点火電圧を上げる事に懐疑的だ。
    2015年08月24日 CDIの電圧を倍にする効果の程は?
    ところが、RZ(29L)で試した時は出力改善に一役買った。
    2019年11月18日 OSR-CDI Ver2.0はVer1.3を超えるのか(1)
    なので今は点火電圧を上げる事は、リスクがありつつも車体によっては意味があるというスタンス。
    例えばAC-CDIはコンデンサの充電電圧を1000V位にするのは簡単。簡単だけどメーカーはそれをしていない。つまりリスクとメリットが混在しているという事なんだろうと思っている。
OSR-CDI 600V spl.は無事動作をした。
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ケンさんは、この600V版のOSR-CDIを2個作って、友人のR1-Zにも装着。
色々とリスクはあるかも知れない600V版。
しかしケンさんはこれを採用する事を決心した。
akuma
乗ってみたところ「プラシーボかも知れないけどいい感じ」という。
そして、ケンさんはR1-Z(3XC)を伴った聖地「和光2りんかん」へ乗り込んで、パワーチェックに行く事にした。
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和光2りんかんは、今時珍しく2ストロークのパワーチェックを快く引き受けてくれるレアな場所だ。
その結果は次回。

車種によって発電機が違う

さて、ここまでで、RZやTZRの発電機でも種類によって動きが違うことが分かった。
色々な車種のサービスマニュアルを調べたところ、
(1) 29L-1AR-51L の系統
(2) 1KT-1XG-2XT-3HM-2YK-3XC の系統
がありそうという事が分かった。
ちなみにAC-CDIを採用する後方排気TZR(3MA前期)は上記(2)系統の発電機を真裏にしたものという事は後から教えて貰った。

この時点で、実データとしては、29L、1XG、3HMに加え、ケンさんの友人のR1-Zの協力もあり、3XCもデータが取れた。
最後に初期型TZR(1KT)に乗るスーさんに協力をしてもらって、こちらも調査。
2020年02月24日 TZR250(1KT)のCDI調査
これまで前述の予想は当たっていて、ヤマハのAC-CDIを採用するパラツインは、29L系統と1KT系統の二種類がある事はほぼ間違いが無いところまで調べがついた。(3MA後期〜3XVはDC-CDI)

結果として、OSR-CDI Version1の配線は純正CDIにしっかり準拠している事は判明した。

純正CDIが低電圧な理由

ここで次の謎が出て来た。
1KT系統では、純正CDIは250V程度までしかコンデンサーに充電されない。
ところがOSR-CDIを繋ぐと350V位まで充電される。
充電回路や配線はどちらも同じなのに、なぜこの差が生まれるのか。
更に逆接続にすると500Vを超えてくる。

これはパチロクさんから貰った1XGのCDIを分解調査することで、単に使っている部品(ダイオード)が古い事と、CDIのデジタルICがバッテリーじゃなく、CDIの充電コイルから電源を取っているからだという事で結論付けた。

ここまでのまとめ

  • AC-CDIを採用するヤマハパラツイン(RZ/TZR/R1-Z)は発電機の系統が2種類ある
  • 29L系統は三回充電して一回放電。
  • 1KT系統は二回充電して一回放電。
    メーカ純正の設計では一回分の充電を捨てる。
  • 1KT系統は配線を変えるだけで高電圧高効率なコンデンサ充電が可能となる。
  • OSR-CDI Version2は、プラス側波形を取る機種では現時点ではタコメータが動作しない。
  • OSR-CDIは、純正CDIよりも効率よく電気を使える。
パワーチェックの結果とその考察編につづく