この間書いたSDRの船漕ぎ現象。
色々教えて頂いてまたも考察が深まった。

2017年03月15日 2ストの船漕ぎ現象〜モデル化

その中でもまたもや世界最速SDRのノウハウを頂く。
世界最速のSDRについては、以下を参照
この世界最速のSDRがフルコースを走る姿。
世界一カッコいいライダーの一人である津村選手が駆り、今年も岡山国際サーキットモトレボリューションで走っています。
SDRが好きな人、まだ見てないならば是非見て応援してください。

さて、そのSDRの面倒を見るTZKさんからアドバイスがあり、差しさわりの無い範囲で引用。
排気デバイスがなくてリードバルブがステンレス鋼製だった頃、USAのハイウエイを制限速度で巡行するとちょうどハンチングが発生する回転域にはまって困った、2枚1組のリードバルブ 同じのを2枚使用していたのを 厚さが違うのを組み合わせて回避したとのこと特定の回転域で強いハンチングが出るのを 浅く広く馴らしたのでしょう。
この文面を読んだだけで、すっかり気が付きました。RD400の開発物語のことだなと。
それから暫く経ったとき、RD400の海外現地テストに飛んでいたW課長からテレックス(電信レター)が入っていた。内容は、ヨーロッパでの現地テストはうまくいった物の、アメリカはカリフォルニアでの現地テストで重大な問題が発生したと言うのだ。
問題の内容は、アメリカの速度規制55マイル=88km/hで走行すると不正燃焼から”ギクシャク”した走行になると言う。国内の高速道路での規制速度80km/だと出ないし、車の速度100km/hでも出ない。つまり、社内テストの”盲点”を突かれた状態。
引用:開発物語 第10話 点火時期を計る http://www2s.biglobe.ne.jp/~casa/g-story-10.htm
そうそうこれこれ。
これは結局解決されているんだけど、是非とも読んだことが無い人は読んでみて欲しい。
日本の製造業の熱い熱い時代の物語。
物作りを生業としてきた人ならきっと共鳴できるはず。
その解決方法の一つがこれ。
リードバルブはキャブレターからエンジンのクランク室に入る吸入ガスをコントロールする部品で、三角形の台に上下二枚で一組となる形で取り付けられている。上下2枚となるリードバルブの板厚を変えると”トルクの谷”改善に有効であると言うのは知られていた。しかし、こっそり言うとこれはライバルメーカーのスズキの特許項目。〜中略〜ギクシャクは収まったものの、一つ残念なことは低回転でのパンチ力が無くなったことだ。具体的には2500回転からでもスロットルに反応してくれたのが3500回転からになり、ソフトな乗り味になった。対策前までは350から50ccアップした分余裕ある低速性能を発揮していただけに、残念としか言いようがない。
引用:開発物語 第11話 緊急テスト http://www2s.biglobe.ne.jp/~casa/g-story-11.htm
結局スズキの特許をこっそり使って解決したらしい。
※文中、スズキの特許であるリードバルブの上下板厚を変更する手法は「見つかったときに考える」と言うことで、暗黙の内に生産を開始した。〜中略〜その後スズキから指摘を受けた。〜中略〜その後私の居たグループで開発したスクーターであるパッソルのホイールをスズキの新型車「スージー」に供給することで解決した。
ちなみにこの特許は特許検索したところ、
「特公昭47-005011 2サイクルエンジンのリードバルブ」
で見つかった。ちなみに平成5年以前の特許はテキスト検索出来ないので、特許・実用新案分類検索で検索式「F02B33/00」辺りで検索したら出て来てくる。

恐らく当時の特許法に基づけば、1972年に公告されてから15年で、87年には特許は切れていたはずだ。TZR(1KT)が発売され、NSR(MC16)が発売され、そして2ストロークモーターサイクルのターニングポイントであるNSR(MC18)が発売されたころの話。
その特許から引用。
ところでこれらのリードバルブはピストンの移動サイクルに順応してエンジンの吸気時のみ開くように吸気孔を開閉しなければならないものであるが、2つのリードバルブが同一バネ定数を有しているため、ピストンの低速域から高速域に至るまで広い範囲にわたってリードバルブの開閉はピストンの動きに追従できなくなって混合器を吹き返してしまうようになり、吸入空気量が減少してエンジンの出力が低下してしまう欠点があった。〜中略〜このため、一方のリードバルブの固有振動数は低く、他方のリードバルブの固有振動数は高くなり、高速時においても固有振動数の高いリードバルブはピストンの動きに追従して吸気孔を開閉し、高速域においても吸入空気量が減少することがなく、エンジン出力が低下することがない。
 引用:特公昭47-005011 2サイクルエンジンのリードバルブ
なんですと。
当時の特許なので詳細な実験データ等は無いとてもシンプルなものだ。
簡単に言えば、ある特定の回転数で、リードバルブが殆ど開かなくなる様な状態になるので、バネ定数が違う複数のリードバルブを組み合わせて吸気効率をアップさせるというもの。
ちなみにスズキのガンマのリードバルブは全部同じものなので、ヤマハと同じで排気デバイスの導入やリードバルブの材質変更、キャブレターの性能向上で克服したんだろうとは思う。
よもやRGV250の様なバイクでリードバルブ一枚のコスト削減の為に性能を犠牲にするとも思えないし。
バイクの性能なんて解がひとつって事はなく、必ず複数の選択肢があるはず。
恐らくスズキはまた別の解を得たのだろう。

ちなみにだけど、YPVSが電源オン時にウィーンと動く理由もこの開発物語に記述がある。
もしかしたらRD400でも間に合ったかも知れない技術だったんですね。 
 当初、このシステムは社外に出ることはなく研究がされていたが、ワークスモトクロッサーに取付けて好成績を納めると共に、私が居た実験部でもAさんがRDでテストを行っていたが、構造上燃え残りのオイルがカーボンとなって堆積し、排気バルブを固着させてしまったり、潤滑用にグリスを使っていたが高温のために保たなくて、NASAのシャトルで使うグリスまで使ったことがあるようだが、それでも耐久性が無く、とても一般市販車に向けた”実用化”にはほど遠く、せいぜい市販モトクロッサーYZに採用されるくらいな代物でしたが、後に発売されるRZ250においてカーボン固着を解消する”セルフクリーニング機構”を用いてYPVSという名称で市販化されました。
引用:開発物語 第8話 リベンジ? オートキャンセル http://www2s.biglobe.ne.jp/~casa/g-story-08.htm

2017年03月17日 2ストの船漕ぎ現象〜RD400開発物語から読み解く 
2017年03月18日 1KTと2TVのリードバルブの違い 
2017年03月19日 ハーモニカじゃないです、リードバルブです
2017年03月20日 削れたリードバルブの詳細